配付資料の体裁 2020 (OBSOLETED)

古い方法・見解 この記事に対して,私はすでに新たな方法・見解を持っています1。この記事は,過去の記録として残しているものです。現在の方法・見解については,次をご覧ください。


この記事では,私が作る配付資料の体裁について,備忘のために現時点のことをまとめます。具体物は数学資料の記事などを参照ください。また,内容にかかる工夫については別の記事を立てたいと考えています。

体裁の重要性

教員のみなさまにおかれては,授業の中で配付資料を用いることがしばしばあるでしょう。私自身よく用います。配付資料を作るにあたっては,構成・内容が大切であるのは言うまでもありません。しかし,生徒の理解を考えるにあたり,私たちはもっと体裁に気を配らなねばならないのではないかと感じています。

「親切な」資料の価値

この記事をお読みになって,親切に過ぎ生徒の対応力を削いでいるとお感じになるかたもいらっしゃるでしょう。しかし,私は対応力を養うことはそれを目的とした場(ホームルームなど)に任せたいと考えています。近年は発達障碍をはじめ,子供たちには様々な特性があることが明らかになっています。教科の授業では,教科の中身以外の困難さはなるべく取り除きたいのです。

よく目にする体裁

生徒のころに受け取った資料を思い出しても,反故紙として印刷室に残された資料を眺めても,以下のような資料を多く目にします。

  • 余白に乏しい資料
    穴をあけてフラットファイルに・あるいはZ式ファイルに綴じて管理しようにも,そうすると文字が隠れてしまいます。また,同じサイズのノートに挟む場合,端は折れて読めなくなってしまいます。生徒はこちらの思い通りには管理してくれませんから,意識しておかねばなりません。
  • 紙面中央に文字が来る資料
    片面印刷の場合,山折りにし小口を綴じて保管しようと思う生徒もいるでしょう。しかし,紙面の中央に文字や図があると,折ったときに読めなくなってしまいます。生徒の用いるノートの多くは B5(セミ B5)判です。一般的な紙の大きさは A4 判が主流となりましたが,学校現場では今でも B4 判が多く残っています。B4 の紙を B5 のノートに貼る場合,中央で切らねばなりません。しかし,紙面の中央に文字や図があると,分断されてしまいます。片袖折り2をすればよいと言えばそれまでですが,ノートが膨らむなどの事情もあり生徒が嫌がるかもしれません。

私たち教員は,中身を正確かつ充実したものにするために多くの情報を載せようと考えがちです。同時に,資料を配付することによる授業の流れ・生徒の集中が途切れなどのために配付資料は少ない枚数に留めたいと考えがちです。これらの相互作用により,余白に乏しく・不自然な段組を持ち・文字の小さな資料を作ってしまうのです。しかし,このような資料は読みづらく・管理しづらく,生徒を「(何度も)読もう」という気にさせられません。

私が作る配付資料の体裁

紙面の設定

現在,私は多くの資料を LaTeX という組版ソフトウェアを用いて書いています。しかし,以下の紙面設定は Microsoft Word や一太郎でも同様に設定・配慮できるはずです。実際,以下のように定めています。

  • 版面は B5 用紙,B4 印刷時は B5 の 2 アップ
    現在の勤務校3では,講義資料は概ね B4 用紙で印刷されています。しかし,B4 用紙の 2 段組では折ったりスキャンして管理する場合に読みにくくなります。余白を多く取る意味でも,B5 原稿の 2 アップで取り扱っています。
    A4 用紙を使うこととなれば,A4 用紙縦置きの 2 段組みを選択することになるでしょう。
  • 余白は上下 20mm,左右 25mm
    本来,紙面の余白は上下を多めにとります。しかし,それは製本されたもの・ステープラで綴じるものに対して言われることです。ファイリングする際に左右の余白のみが失われることを考え,左右の余白を多く取っています。これだけあれば,フラットファイルに多くの紙が綴じてあっても十分に読むことができます。
  • 文字サイズは 11pt
    やや大きめですが,これには 2 つの理由があります。
    目で文字を追うにあたって,1 列に 15 文字から 35 文字程度までが読みやすいとされています4。B5 用紙で左右の余白を 25mm とするとき,11pt であれば 37 文字程度に収まります。
    講義資料は,教科書や問題集と同時に読んでもらうことが念頭にあります。したがって,それらと大きく見た目が違うと抵抗があるでしょう。少しでも読みやすく感じてもらうため,教科書の文字サイズに寄せているのです5
  • 傍注領域をとり,文字サイズは 9.5pt6
    目で文字を追うにあたって,1 列に 15 文字から 35 文字程度までが読みやすいとされています7。傍注領域を設けると,9.5pt であれば 30 文字程度に収まります。傍注領域を設けるのは,注を書くためもありますが,むしろ生徒が自分の気づきを書き込むスペースを設けるためです。
  • 行間は 50%
    50% から 100% までの行間が適切とされています。文字サイズがやや大きいこと,1 枚の情報が少なくなりすぎないことを考え,行間は最小限としています。
    行間が詰まった資料は目が滑りやすいものです。視覚に難しさを抱える生徒も存在します。個別対応が必要な場合もありますが,もとより少しでも読みやすい資料にしておきたいものです。

書きかたのルール

ここでの内容は,特に高等学校数学科に特化しており,他の校種・教科では適切でないかもしれません。また,高等学校数学科であっても,生徒の特徴により適切でないかもしれません。

現在,私は以下のルールに基づいて資料を作っています。

  • 見出し
    《定義》《定理》といった大見出しと,〈理解〉〈補足〉といった小見出しを用意しています。一般的な教科書では,これらを都度厳格に区別するようには書かれていません。しかし,私自身はそれぞれの文がどのような性格の主張であるかを明示することで学びやすくなると考えています。
    さらに,試験までに分かればよい見出しに★,得意なひとだけが読めばよい見出しに★★,高校数学で理解できるが入試の範囲では不要な見出しに†,高校の範囲外である見出しに‡を振っています。試験や入試を基準に記号を振ることに若干の抵抗はありますが,苦手な生徒ほど「この内容が易しいのか難しいのか」を汲み取ることができません。そのために,こちらで難度を示しています。発展的な資料においては,タイトルそのものにこれらの記号を付けています。
    最近,同僚のアドバイスに従い,見出しのみに 1 行を与え内容は改行して書き出すこととしました。これは,区切りを分かりやすくするため・生徒に書き込む場所を提供するため・1枚の情報量を制限するために行っています。
  • 板書と同じ記号使い
    板書で用いる記号と配付資料で用いる記号は原則として揃えています。板書の色も,そもそも多様な色覚を念頭に色のみで意味を持たせることはしていませんが,強調色にはゴシック体破線囲み8を対応させています。生徒には数学的内容とその表現に力を注いでもらいたいものです。資料の意味を汲む段階で疑問を与えたくないのです。
    これらの記号使いは,年度当初に凡例を配付しています。
  • 躊躇ない別行建て数式
    とくに易しい式を除いて,極力別行建て数式を用いています。生徒にとって,数式の解読は一仕事です。インラインの数式が多くなると,停止する時間が増え目が滑ったり集中を削いでしまいます。
  • 常体と敬体
    数学的事実には常体,その他個人的な意見9には敬体を用いています。常体と敬体の混じる文章は本来美しくありません。しかし,見出しにより明確に分かれていることを踏まえあえて行っています。
    これは,すべてを常体で書くとやや厳めしく,数学が苦手な生徒に対しては負担感があるためです。そもそも,資料は講義のみでは難しい・不足がある場合に作るものです。生徒に読ませたとき,講義を受けたように内容を受け取ってもらうため,敬体で語り掛ける文面としています10

これらのルールは,自身で振り返ったり・同僚に相談したり・生徒に聞き取ったりしながら改訂しており,紆余曲折の末ひとまず落ち着いたものです。


  1. 追記 2023-08-11。段落全体。 ↩︎

  2. 株式会社イシダ印刷,地図や年表を見やすく「片袖折り」の使い方、印刷価格~オプション加工について知ろう(2)~,参照 2020-12-28。 ↩︎

  3. 2022 年 07 月現在の勤務校。 ↩︎

  4. 株式会社アーティス,可読性の高いデザイン作成のポイント(後編:行間&字間&行長)。ビジネスとIT活用に役立つブログ,参照 2020-12-28。 ↩︎

  5. 株式会社イシダ印刷,印刷して読みやすい文字(フォント)のサイズは?【本・冊子・テキスト】。株式会社イシダ印刷,参照 2020-12-28。 ↩︎

  6. 改訂 2022-07-23。文字サイズについて変更。 ↩︎

  7. 株式会社アーティス,可読性の高いデザイン作成のポイント(後編:行間&字間&行長)。ビジネスとIT活用に役立つブログ,参照 2022-07-23。 ↩︎

  8. 改訂 2022-07-23,破線囲みは手書きすることが現実的でないため。 ↩︎

  9. 改訂 2022-07-23。 ↩︎

  10. 削除 2022-07-23。 ↩︎